奈良特産品 吉野葛

 
◆手軽に入手でき幅広い用途

◆本葛の見分け方
 参考文献「あかい奈良」1999年夏号(発行:グループ丹)



手軽に入手でき、幅広い用途・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 

くずまんじゅう、くずきり、くずもち・・・・・・、涼を呼ぶその透明感から、葛(くず)といえば夏の和菓子に欠かせない食材と思われているが、冬の季節にも欠かせない食品です。昔は風邪を引くと、必ず熱い葛湯をふうふういいながら飲んだものです。また、根を乾燥したものが葛根(かっこん)で、風邪の生薬として、よく知られています。晩秋から冬にかけて、吉野葛の生産はピークを迎えます。

 

◆役行者が広めたとも・・・・・
 

吉野葛の原料となる葛は、秋の七草の一つで、初秋に紫紅色の花を咲かせる。全国各地の山野に、ごく普通に見られる大形のつる性草木。生命力が強く、他の木に巻き付くと、やがてその木は枯れてしまう。だが、ヤマイモに似た形の大きな塊根からは、葛粉と呼ばれる澱粉(でんぷん)が多量とれる。古くから大和は葛の名産地としてよく知られ、葛の名は吉野の国栖に由来するとも言われている。また、伝説によれば7、8世紀の頃、大和葛城山にいた修験道の祖・役小角が、吉野の山奥で修行中、草根木皮を摂取して飢えをしのいだが、そのとき葛の根から澱粉をとり、寒水にさらして、長く貯蔵することを考えだしたのが、吉野葛の起こりとも考えられます。いずれにしても、わが国では、万葉集や古今和歌集の中で歌われるほど、親しまれた有用植物で、葛粉は澱粉全体の代名詞ともなっていた。とくに吉野葛は良質で、葛を用いた料理には「吉野仕立て」といわれるほどである。

 

◆採取後すぐ粗葛に・・・・・
 

さて、吉野葛の原料となる葛根は、現在、吉野山系、大和高原、金剛山系などの山々から集められる。根に澱粉が十分貯えられる晩秋から冬にかけて掘り起こされた根は、現地で押し砕き繊維状にした後、水でもみ洗いし、布袋でこされる。そのまま一昼夜置いてから沈殿させ、上澄み液を捨てると粗葛ができる。掘ってから三日以上置くと沈殿が変質するため、すぐに作業に入るのだ。

 

◆水さらしで純度を高める・・・・・
 

摂取地から運びこまれた粗葛は、繰り返し水洗いされ、澱粉とかすにわけられ純度を高めていく。最初の水はあくで真っ黒。何度も冷たく清らかな水でさらしていくと、ミルクのような白い液体になっていく。さらに水を加えて二昼夜静置しておく。上澄みを捨てると、沈殿速度の違いのため、表面には細かい繊維のかすや渋、底には土や砂が集まっている。これらの不純物をそぎ落とし、残った白い固まりを桶(おけ)へ。再び井戸水で溶き、沈殿させ、不純物を削り落としていく。この作業を繰り返す。さらに澱粉を純粋にするために絹ふるいで澱粉を分けることもある。葛粉が寒い時期にしか作れないのは、水温が高いと不純物が分離しにくくなるため、ここで褐色の粗葛が純白の本葛に生まれ変わるのである。

 

 

◆1ヶ月半かけて自然乾燥・・・・・
 

十分にさらされた澱粉(「さらし葛」という)は、小穴のある底板の上に綿布を敷いた桶に移され、水分を滴下させてから、高野豆腐のような形に切り出され、乾燥される。冬のおだやかな日差しの下で、表面がざっと乾いたら、風通しのよい倉庫へ移される。そこで1ヵ月半ほど自然乾燥され、ようやく葛粉ができあがる。このため、純粋の葛粉は粉状ではなく、石を砕いたような不整形の硬い固まりとなるのだ。10貫(37.5kg)の根から、1.2〜2貫(4.5〜7.5kg)の葛粉が得られるという。